我々はたくさんの種類の音と共に暮らしています。ヒトは声(音声)によって他の人とコミュニケーションをしたり、音楽を楽しむこともできますし、いるかやこうもりは高い周波数の音波(超音波)を障害物や餌を探知するソナーとして使っています。音は空気の振動(波)であり、音の高さは1秒間の振動数(周波数:ヘルツ(Hz))としてあらわされます。ヒトや動物は耳を使って音を聞くことができます。

1.聴覚器の構造


 音に対する感覚が聴覚です。ヒトは約20−20000Hz、犬やこうもりは数万ヘルツの音(超音波)を聞くことができます。 音を感じるのが聴覚器です。聴覚器は外耳(External ear),中耳(Middle ear), 内耳(Inner ear)に区分できます。外耳は耳介と外耳道、中耳は鼓室、内耳には蝸牛(Cochlea)と前庭器官からなります。外耳から入った音は鼓膜(Tympanic membrane)を振動させます。この振動はツチ骨(Malleus),キヌタ骨(Incus),アブミ骨(Stapes)へと伝えられますが、これら3つの耳骨の構造と鼓膜、アブミ骨の面積比で音圧が約22倍に増幅されます。この音圧の増幅によって アブミ骨に伝達された音は蝸牛の中のリンパ液中を伝達し、音の受容器に伝えられます。 脊椎動物の蝸牛はまっすぐなものが多いですが、ほ乳類の蝸牛はかたつむりのからのように約2.5周回っています。
耳管:中耳と咽頭を結ぶ管で、中耳内と外気の気圧を調節します。飛行機や高い山に登ると耳が「キーン」となりますが、これは外気圧がさがり、中耳内の気圧とのバランスがくずれ鼓膜に圧力がかかるためです。この時につばを飲み込んだりすると耳管が開き、中耳内と外気の圧力のバランスが戻ります。
犬笛:犬は人間が聞こえないような高周波の音を聞くことができます。犬笛はこの高周波数の音を出して犬を訓練するために使われます。

2.蝸牛の構造


 蝸牛の断面図をみると、三つに分かれており、それそれがリンパ液で満たされています。一番上が前庭階(Scala vestibuli), その下が蝸牛管(Cochlear duct),一番下が鼓室階(Scala tympani)です。蝸牛管の下壁は基底膜と呼ばれ、基底膜上にはコルチ器官(Organ of Corti)があります。あぶみ骨に伝わった音は前庭窓(vestibular membrane)を振動させ、振動は前庭階から鼓室階を伝わります。その際に基底膜(basilar membrane)を振動させ、この振動は聴覚の受容器である基底膜上の有毛細胞(hair cell)を興奮させます。有毛細胞は外側に3−4列(外有毛細胞)、内側に1列(内有毛細胞)並んでいますが、90−95%の蝸牛神経終末は内有毛細胞と連絡しています。聴覚にとって内有毛細胞は非常に重要であり、外有毛細胞は異なった音程の音に対する感受性を調節する働きを持つと考えられています。

 

 

 音刺激による基底膜の振動は最高1秒間に20000回(ヒトの聞きとれる最高音)に達します。音程を判別できるのは音の周波数によって基底膜の振動する部位が違うからだと考えられています(聴覚の場所説(Place theory of hearing))。前庭窓(アブミ骨)に近いところの方が高い音に対して振幅が大きく、アブミ骨から遠い場所では低音に対して振幅が最大になります。

 気導(Air conduction)骨導(Bone conduction): 外部の音刺激は通常のように外耳から内耳を経由する気導と、外耳を経由せず頭蓋骨を通して内耳に音の振動が伝達される骨導があります。


3.聴覚の分子機構


 聴覚の受容器である有毛細胞先端の毛(Stereocilia)には機械的刺激に応答してカリウムイオンを通過させるイオンチャンネル(K+gated ion channel)があります。有毛細胞の毛は蓋膜(Tectorial membrane)に固定されています。

蝸牛管内部のリンパはカリウムイオン濃度が高く、音刺激によって毛(Stereocilia)が動かされると、カリウムイオンチャンネルが開き、カリウムイオンが細胞内に流入します。このイオン流によって有毛細胞は脱分極し、神経伝達物質を放出します。このインパルスは有毛細胞から蝸牛神経に伝達されます。



 

4.聴覚の伝導路


蝸牛の受容器からの神経インパルスは背側と腹側の蝸牛神経核(Cochlear nucleus)に入ります。ここでシナプスを変え、大部分は対側の上オリーブ核(Superior olivary nucleus)へ伝達されます。3次ニューロンはここから外側毛帯を通り下丘(Inferior colliculus)に到達します。ここから出る4次ニューロンは内側膝状体(Medial genuculate)に入り、5次ニューロンとなって皮質の聴覚野(Auditory cortex)に情報を伝達します。さらに聴覚の一部の繊維は脳幹網様体に連絡しており、大きな音などに反応して脳を賦活化させます。また、他の繊維は小脳へ連絡しています。


 

(1)感音性難聴(Perception deafness): 蝸牛や有毛細胞、聴覚の伝導路等に問題があり、音が聞こえにくくなること。ストレプトマイシンは有毛細胞を障害することがあります。

(2)伝音性難聴(Conduction deafness): 外耳や中耳の異常によって音が聞こえにくくなります。炎症等によって起こります。

聴覚検査: 純音オーディオメトリー(Pure tone audiometry):低周波数(125Hz)から高周波数(8000Hz)の純音を聞かせてその音の聞こえる強さを測定します。気導と骨導の聴覚検査を行うことによって感音性と伝音性難聴を区別できます。感音性難聴では蝸牛や伝導路に障害があるので、気導、骨導とも同様に障害されます。伝音性難聴では外耳、中耳の異常なので、気導は障害されますが、骨導はあまり障害されず、両者の結果に解離が生じます。

 

5.平衡感覚


ひとが体をまっすぐにして立っていられるのは前庭感覚器によって体の平衡をたもっているからです。前庭器は前(Anterior),後(Posterior),外側(Lateral)の3つの半規管と、卵形嚢(Utricle)と球形嚢(Saccule)の耳石器官からなります。3つの半規管はお互いに垂直な面に位置していてその中にはリンパ液が満たされています。三半規管の膨大部(Ampulla)には有毛細胞があり、体が回転するとリンパ液の動きによって有毛細胞が刺激を受け、ジャイロスコープのように回転方向を感知します。蝸牛の有毛細胞とちがい、前庭感覚の有毛細胞には運動線毛(kinocilium)があります。形態的にはI型とII型細胞があります。

卵形嚢と球形嚢には炭酸カルシウムでできた耳石と有毛細胞が存在し、有毛細胞への刺激によって直線加速度や重力の方向を感知しています。ここで有毛細胞に与えられた機械的刺激が電気信号の変換されます。

有毛細胞からの感覚信号は前庭神経(Vestibular nerve)を通り、延髄の前庭神経核(Vestibular nucleus)に入ります。一部は小脳ヘ投射します。前庭神経核からの繊維は脊髄や眼球運動に関係する核に投射しています。

眼振遊園地のコーヒーカップに乗ったときのように体を一定方向に回転させ続けると眼球が体の回転方向に回転し、すぐに戻る運動を繰り返します。これを眼振(nystagmus)といいます。眼振は正常のひとにも起こりますし、脳の病変によっても起こります。

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