脊髄と脳をあわせて中枢神経系(Central Nervous System:CNS)といいます。中枢神経系は末梢からの刺激による反射中枢として働いたり、統合する機能を持ちます。また脳は記憶、情動、意志決定などの機能を持っています。
 脳は左記のように細分類されます。
血液脳関門(Blood Brain Barrior:BBB):脳内にはたくさんの血管が分布していますが、脳の毛細血管は末梢の血管にくらべて物質の選択性が高く、グルコースやグルタミン等、血管から脳へ通過できる物質の種類が限定されています。これを血液脳関門といいます。
脳脊髄液(CSF):脳や脊髄は脳脊髄液とよばれる液体によって包まれています。脳脊髄液は約120mlあり、脳を保護したり、栄養や代謝物を運ぶ役割をしています。脳脊髄液は脊椎穿刺によって採取することができ、その性状は疾患等によって変化します。

 

 

 

 

 

 

 

1.脳(Brain)


 大脳は成人で約1400g程度あり、左右の半球に分かれています。その表面には、たくさんの溝がありますが、中心溝、外側溝、頭頂後頭溝等によって、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられています。

 

 

 


A.大脳皮質(Cerebral Cortex)


大脳皮質(Cortex) :大脳表面の皮質は約140億個の神経細胞から構成され、それらの神経細胞がシナプスによって複雑に結びつき神経回路網を形成しています。神経細胞の周囲にはグリア細胞があり、神経細胞に栄養を与えたり、 脳の構造を保つのに役立っています。
 皮質の構造: 
(1)6層構造: ヒトの大脳皮質には6層構造を持つ部分が見られます。これらは(1)叢状層(2)小錐体細胞層(3)中錐体細胞層(4)星状細胞層(5)大錐体細胞層(6)紡錐体細胞層の6層からなっています。
(2)コラム構造: 大脳皮質、特に感覚野では、同じ働きをするニューロンがたくさん円柱状(直径0.5mm程度)に集まり、機能円柱(コラム)の形成が見られます。

 機能局在: 大脳皮質はその部分によって全く異なる機能を分担しています。、ブロードマン(Brodmann)は、皮質を細胞構築学的に約52の領域に分類しました。 これらの領域はそれぞれ異なった機能を持っています。

前頭葉(Frontal lobe)
 前頭葉は中心溝より前頭部をいいます。中心溝の前部にあるブロードマンの4野は運動野でBetzの大錐体細胞からの遠心性線維は運動線維に接続し、錐体路と呼ばれます。44野はブローカ(Broca)の中枢と呼ばれる運動言語中枢で多くのひとでは左半球にあります。9,12,13,14,24野は自律機能に関係しています。
半球の運動野は半身の運動(筋肉)をコントロールし、左半球の運動野は右半身の運動をコントロールします。また運動野の部位によって体のどの部分(顔、手、足等)の運動をコントロールするか決まっています。この左右対称性や体の部位による機能局在は感覚野でも同じです。

ブローカ中枢が傷害されると他人の話の内容は理解できるが言葉を話すことができない(運動性失語症:motor aphasia)になります。

頭頂葉(Parietal lobe)
 頭頂葉は中心溝より後頭部の部分をいいます。1,2,3野は体性感覚野と呼ばれ、視床を通して身体の感覚(皮膚、深部感覚)線維を受け、身体各部からの感覚情報を処理しています。

側頭葉(Temporal lobe)
 側頭葉は大脳皮質外側にあります。41、42野は聴覚野と呼ばれ、聴覚情報を処理します。22野はウエルニッケ(Wernicke)中枢という聴覚言語中枢で言葉を理解するのに重要です。
ウエルニッケ中枢が傷害されると自分の話したいことは言えるが、他人に話が理解できない状態(ウエルニッケ失語)になります。

後頭葉(Occipital lobe)
 後頭葉は後頭部にあります。17野は視覚野で視覚情報を受けて処理します。18野は視覚の連合野です。

辺縁葉(Limbic lobe)
 大脳内側にあり、帯状回、梨状葉、後眼窩回、海馬、島等を含みます。これらの部位は自律機能、嗅覚、情動、記憶、本能などに関与しています。

右脳と左脳:大脳は右脳と左脳に分かれており、両者は脳梁繊維によって結び付けられています。昔、Sperry(スペリー)は病気の治療のために脳梁繊維を切断することによって左右の脳の連絡を断ち切り、それぞれの半球の脳の機能を調べました(分離脳:Split brain)。それぞれの半球が半対側の身体の運動や感覚情報を処理しているだけではなく、たとえば視覚に関しては右側の視野の映像は左脳で処理され、左視野の映像は右脳で処理されていることもわかっています。それ以外にも多くのひとでは言語中枢は左脳にありますし、一般的に左脳は言語的な思考、右脳は非言語的、空間的、映像的であると考えれています。

B.基底核(Basal Ganglia)

 大脳基底核(Basal ganglia):尾状核(caudate nucleus), 被殻(putamen),淡蒼球(globus pallidas)、扁桃核、中隔核、前障、ルイ体、黒質、赤核を含む終脳皮質下の部分をいいます。尾状核と被殻を合わせて線条体(corpus striatum)といいます。大脳基底核は錐体外路系として不随意運動のコントロールを行っています。基底核には2つの重要な経路があります。

( 1)被殻を介する経路
:前運動野と体性感覚野からの繊維は被殻を経由し、淡蒼球、視床を経て運動野と前運動野へ投射します。この経路は訓練を必要とするような複雑な運動のコントロールに重要でこの経路が障害されるとathetosis, hemiballismus, chorea等が起こります。

(2)尾状核を介する経路:前運動野や連合野からの繊維は尾状核、淡蒼球、視床を介して前頭前野、前運動野等に投射します。この経路は認識による運動のコントロールに関与しています。

(1)パーキンソン病(Parkinson's disease): 黒質細胞の変性により黒質線条体路のドーパミンが線条体で減少します。振戦、固縮、歩行障害、仮面様顔貌等が現れます。パーキンソン病の原因は不明ですが、パーキン遺伝子、α-シヌクレイン、活性酸素等の関与が考えられています。パーキンソン病の治療にはドーパミンの補給のために、L-Dopaの投与等が行われています。

(2)ハンチントン舞踏病(Huntington's chorea): 尾状核、被殻、大脳皮質の神経細胞変性が見られ、舞踏病等の不随意運動と痴呆があらわれます。遺伝子疾患で、トリプレットリピートの異常によって起こります。

C.視床・視床下部(Thalamus, Hypothalamus)

視床(Thalamus)は情報の中継点であり、嗅覚を除く感覚情報は視床で中継され脳の各部位でその情報が処理されます。

 視床下部(Hypothalamus)は自律神経系、内分泌系のコントロールに重要であり、身体のホメオスターシスの調節に関与しています。視床下部はさまざまな調節機能を持ちます。

(1)摂食・飲水調節(Food and water intake)
: 視床下部には摂食中枢があり、視床下部外側には空腹中枢、内側視床下部には満腹中枢があります。これらの中枢は血中グルコースやアミノ酸などに反応すると考えられており、食事をとることによって満腹中枢が刺激されると満腹感が生じ、摂食をやめると考えられています。最近はレプチン(Leptin)という物質が脂肪細胞から分泌され、満腹中枢に作用して摂食をコントロールしていると考えられています。
(2)体温調節(Thermoregulation):視床下部には体温調節中枢があり、血液の温度をモニターして体温のコントロールを行っています。前視床下部には温熱中枢、後視床下部には寒冷中枢があります。
(3)情動(emotion):視床下部は怒り、恐怖、喜びなどの情動の発現に関与しています。
(4)ホルモン分泌(hormone secretion): 視床下部は下垂体、腎臓、子宮、乳腺などの機能を調節するホルモンを分泌しています

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