3.細胞周期(Cell Cycle)

 体を構成する細胞は成長過程で分裂・増殖します。また古くなって働きを終えた細胞は新しく増殖した細胞に置き換えられます。このように細胞の分裂する過程を細胞周期(Cell Cycle)といいます。細胞周期はいくつかの時期に分類されます。
(1)G1(Gap1)期M期とS期の間にあり、細胞によってその長さが違います。G1期の細胞は細胞分裂のためにS期にすすむか、分裂せずに静止期(G0期)に入るか、細胞周期を離れて分化し、特別の機能を持つ細胞になる等の運命をたどります。
(2)S期染色体DNAが合成され、複製がつくられます。
(3)G2(Gap2)期S期とM期の間に位置し、細胞分裂の準備期です。
(4)M期 細胞の分裂が起こります。M期は約30分程度です。
 細胞周期の中に細胞周期を進めるかどうかを決定するチェックポイントと呼ばれる時点があります。細胞周期のコントロールはサイクリン(Cyclin)やサイクリン依存性キナーゼ (Cyclin dependent kinase:CDK)が関与しています。

4.細胞分裂(Cell Division)

 細胞周期を経過してM期に達した体細胞は細胞分裂をします。細胞分裂は核が分裂する有糸分裂(Mitosis)と細胞質が分かれる細胞質分裂(cytokinesis)にわかれます。M期はさらにいくつかの時期に分類されます。
(1) Prophase(前期)染色体が凝縮し、見えるようになります。Centrosome(セントロゾーム:中心体)と呼ばれる構造体が2つ構成され、そこから微小管が伸びています。各染色体とそのコピーはCentromere(セントロメア:動原体)と呼ばれる部分でつながっており、この部分には微小管が結合するキネトコア(Kinetocore)と呼ばれる部分があります。
(2)Prometaphase( 前中期)核膜が消失します。微小管に引っ張られて染色体が赤道面へ移動し始めます。
(3)Metaphase(中期) 染色体が赤道面に並びます。
(4)Anaphase(後期) セントロメアの部分でつながっていた染色体が別れ、それぞれが極へ移動していきます。
(5)Telophase(終期)染色体が両極へ移動し、凝縮がなくなります。核膜が形成されます。細胞質が分裂し始めます。
 この後、細胞質分離(Cytokinesis)が起こり、細胞が2つに分裂します。
有糸分裂した細胞は一組の染色体(2n)を持ちますが、有性生殖する生物の配偶子(精子と卵子)は、減数分裂(Meiosis)を行います。減数分裂では染色体の複製は1度だけ行われ、2回の細胞分裂により、染色体のコピーを一つずつ(1n)持つ細胞が作られます。これらの細胞は受精により、通常の2nの細胞になります。

5.細胞死(Cell Death)

  壊死
(Necrosis)
アポトーシス
 (Apoptosis)
細胞死 受動的(傷害等の外因)非生理的 能動的(遺伝子のプログラムによる) 生理的細胞死
炎症  あり  なし
核、DNA  著変なし DNA の規則的断片化(DNAラダー)
ミトコンドリア 腫脹 変化なし
細胞質 膨張 縮小、断片化(アポトーシス小体

  細胞は増殖するだけでなく、さまざまな原因によって死滅します。たとえば怪我をするとその部分の細胞が壊死し、炎症が起こります。これとは別にたとえば身体の形成段階で不必要な部分の細胞が自主的に死滅したり、突然変異等で遺伝子に変異を起こした細胞は自主的に死滅します。このように自主的(能動的)に細胞が自殺することをアポトーシス(Apoptosis)といいます。アポトーシスは遺伝子のプログラムに沿った細胞死で、受動的な細胞死である壊死とは区別されます。細胞の形態を観察すると壊死とアポトーシスでは左表のような違いがあります。たとえば、アポトーシスでは細胞質が縮小断片化し、アポトーシス小体とよばれる構造が見られます。また、染色体DNAが約200bp程度の長さの倍数に断片化し、DNAの電気泳動にてDNAラダーと呼ばれるハシゴ状のDNA断片が見られます。アポトーシスは数時間で完了しますが、壊死過程はより長い時間をかけて進行します。
  アポトーシスの制御機構は複雑ですが、Bcl-2や蛋白分解酵素であるカスパーゼ(Caspase),DNA分解酵素であるDNA断片化因子(DFF)等が関与しています。
 アポトーシスは生物の発生過程、癌、自己免疫疾患、AIDS等と関連があるといわれています。 

6.ガン細胞(Cancer)

正常の細胞は増殖しますが、ある程度増殖するとそれ以上の細胞分裂は停止します。がん細胞はこの増殖が無限に続く異常細胞で、周囲の正常組織を破壊したり、転移によって遠隔臓器で増殖したりします。がん細胞には染色体数の異常、染色体の部分欠失、複製や遺伝子の突然変異等が見られます。これらの異常によってOncogeneと呼ばれる細胞増殖を誘導する遺伝子が活性化したり、がん抑制遺伝子(tumor supressor gene)の機能低下で細胞増殖が促進します。たとえば肺がんにはP53というがん抑制遺伝子に突然変異がみられるものもあります。がんの治療には外科的摘出、抗がん剤、放射線や遺伝子治療等が行われています。 

7.幹細胞(Stem Cell)

 幹細胞は増殖能をもつ未成熟な細胞で、さまざまな種類の細胞に分化する可能性を持ちます。
 (1) TotipotentまたはPluripotent Stem Cell 万能幹細胞とも呼ばれ、受精卵や胎児の細胞(Enbryonic Stem Cell: ES cell)に由来します。体を構成するほとんどの種類の細胞に分化できる可能性を持ちます。
 (2) Multipotent Stem Cell 造血幹細胞のように大人の骨髄から採取できるが骨、脂肪、軟骨細胞等限られた種類の細胞にしか分化できないものをいいます。

  幹細胞は細胞移植によって糖尿病、神経疾患、心筋梗塞等いろいろな病気の治療に応用できる可能性があります。

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